東京高等裁判所 昭和45年(ラ)574号 決定 1970年11月07日
抗告人 長野県作業足袋工業協同組合
右代表者理事長 降旗栄一
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は「原判決を取消し、さらに相当の裁判を求める」というのであり、その理由は別紙抗告理由記載のとおりである。
これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
一、競落期日の調書に競落許可決定の言渡が原本に基づき主文を朗読してなされた旨の記載がないとの点について。
本件記録を検討すると競落期日調書に続いて原決定の原本が編綴されているので、言渡は一応右決定原本に基づいてなされたものと推認することができる。元来、決定にはその性質に反しない限り判決に関する規定が準用されるものであるけれども、その告知については原則として民事訴訟法第二〇四条第一項で相当と認める方法をもってすれば足りるものと定められていて、判決言渡の方式に関する同法第一八九条の準用はない。ただ競落許否の決定は例外として言渡の方法によるべきものと定められているけれども、判決と決定との差異に鑑み競落許否の言渡の方式については右第一八九条第一項の準用はなく、口頭をもって決定の結論すなわちその許否を告知すれば足りる。すなわち、右規定は判決のみに関する特別の規定と解するのが相当である。されば、原決定の言渡が仮に決定原本に基づき主文を朗読してなされなかったとしてもこれを違法とすることはできない。
二、本件工場の供用物件たる機械器具類が第三者のなした強制執行により屋外に搬出放置されたため本件抵当権中右物件に対する部分が消滅したとの点について。
本件記録によれば、本件競売開始決定がなされた後の昭和四一年五月二七日頃、浜義郎より抗告人に対してなされた建物退去土地明渡の強制執行により本件工場の供用物件(原決定末尾添付の機械器具類)が屋外に搬出放置されている事実が認められるけれども、そのことによって直ちに本件抵当権中の右供用物件に対する部分が消滅するものということはできない。従って、原審が右供用物件を含めて一括競売したからといって抗告人においてこれを違法と主張し、即時抗告の理由とすることは許されない。
三、本件工場の供用物件の一部が現在せずまた残品について最低競売価額が定められなかったとの点について。
本件記録によればこの点に関し、抗告人の主張する事実自体はこれを認めることができる。しかし、盗取された物件について現在本件抵当権の追及効が及ぶ状況にあるかどうかの点は暫くおき、本件記録上明らかなように、抗告人挙示にかかる執行官の賃貸借取調続行調書には、供用物件中のめぼしいものは殆んど盗取され、現存の機械器具類で役立つものは皆無であると記載され、また、鑑定人の評価書にも、略同様の事実と現存物件は無価値と認められる旨説明し供用物件には評価額なしと記載されており、また競売及び競落期日の公告において供用物件は全部廃品同様であると付記され、その最低競売価額も付せられていないのであるから、競落人において旧所有者に対し瑕疵担保責任を追及する等のおそれはなく、危険負担の問題が生ずることも考えられない。なお、競売及び競落期日の公告に供用物件中現存しない物がある旨表示されていなかった点が民事訴訟法第六五八条第一の不動産の表示として瑕疵があるとの点は、その表示方法の当否は暫くおき、債務者並びに所有者においてこれを即時抗告の理由とすることはできない。また、供用物件に最低競売価額が付せられなかったため抗告人が不当の損害を被るとの点については、本件記録によれば現存物件も、長い間屋外に放置されて風雨に晒され数量の判定もできない廃品同様無価値に等しいものであることが認められるので、本件競売が一括競売であることからみてそれが競落許可決定取消の事由となるものとは認め難いのみならず、本件競売は、前掲評価書に掲げられた不動産の評価額をそのまま採用した最低競売価額合計二三八二万二四〇〇円を三八万二四〇〇円上廻る二四二〇万円の代価で競落されたものであるから、供用物件に最低競売価額が付せられないことによって抗告人が特に損害を被るべきものとも考えられない。
以上の次第で、抗告人が抗告の理由として主張するところはいずれも理由がなく、記録を精査するも原決定には取消の原因となる違法が見当らないので本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 平賀健太 裁判官 石田実 麻上正信)
<以下省略>